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『デッドエンドの思い出』、以前から大事な本のひとつでした。
でもいま読んでみて、吉本ばななさんがあとがきの中で「これまで書いた自分の作品の中で、いちばん好きです。これが書けたので、小説家になってよかったと思いました。」といっている気持ちが少しわかったような気がします。
「幽霊の家」「おかさーん!」「あったかくなんかない」「ともちゃんの幸せ」「デッドエンドの思い出」
まさに“珠玉”という言葉がぴったりの5つの短編たち。
いま、僕にとってこの本は宝石でいっぱいの宝箱のようです
でもここに楽しい話はない。
なんでこんなにもつらくて、切なくて・・・。
読んでいると、胸が痛くて涙が出ます
こんなつらさや切なさのなかにさえ-いや、こんなつらさや切なさのなかにこそある“幸せ”のことを思うと心がすっと透き通って、守られていることを感じられるのです。
光が降り注いで、しかもそのあたりには他にほとんど人がいなかったので、本当に雪景色か天国にいるような神聖な感じがした。私のすねを埋めるほどの枯葉は、いくら踏んでも減ることはなく、乾いた音をたてて舞った。
そして全てがその柔らかい葉の山の中にすうっと吸い込まれ、鳥の声や街の音がとても遠くに聞こえていた。
西山君が買ってきてくれた甘い缶コーヒーを飲んで、私たちは子どもみたいにひざこそうまで汚しながら、いつまでもがさごそと音をたてて歩き回った。
そこには、過去も未来も言葉もなんにもなくて、光と黄色と陽を受けた枯葉のいい匂いだけがあった。
私はその間じゅう、すごく幸せだった。
(「デッドエンドの思い出」)